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福岡高等裁判所 昭和49年(ム)10号 判決

再審原告

永吉永

右訴訟代理人

堤千秋

再審被告

三浦巖

右訴訟代理人

斉藤鳩彦

主文

本件再審の訴をこれを却下する。

再審訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実

再審原告訴訟代理人は「福岡高等裁判所が昭和四五年(ネ)第二六一号所有権移転登記手続請求控訴事件について昭和四八年九月二八日言渡した判決を取消す。再審被告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも再審被告の負担とする。」との判決を求め、再審被告訴訟代理人は本案前の申立として、主文同旨の判決を求め、本案についての申立として、「再審原告の請求を棄却する。再審訴訟費用は再審原告の負担とする。」との判決を求めた。

再審原告訴訟代理人は、請求の原因および本案前の陳述に対する答弁として、次のとおり述べた。

一、再審原告を控訴人とし、再審被告を被控訴人とする福岡高等裁判所昭和四五年(ネ)第二六一号所有権移転登記手続請求控訴事件について、同裁判所は、昭和四八年九月二九日、再審被告の再審原告に対する、別紙目録記載の不動産(以下、本件不動産という。)につき昭和四二年六月一〇日頃の売買を原因とする所有権移転登記手続請求を認容した原判決を維持して、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を言渡した。この判決に対し、再審原告は最高裁判所に上告したが、昭和四九年九月二日上告棄却の判決が言渡され、前記の控訴判決は確定した。

二、しかし、右控訴判決の重要な証拠となつた一審における再審被告本人尋問の結果中には「再審原告は、その妻永吉ツネおよび玉村吉雄に依頼し、同人らを代理人として、再審被告に対して本件不動産を売渡した。」旨および「当時は常に、永吉ツネが玉村吉雄と一緒に訪れていた」旨の各供述部分が存するけれども、当時は、再審原告は勿論、永吉ツネも右売買の事実を全く知らなかつたものである。再審被告のかゝる虚偽の陳述は本来ならば直ちに過料に処せられるべきところ、受訴裁判所において過料の裁判がなされないまゝ審級を離脱しているので、もはや過料の確定裁判を得ることは不可能である。右は民訴法第四二〇条第二項後段の「証拠欠缺外の事由により過料の確定裁判を得ることは能はざるとき」に該当する。

三、よつて、再審原告は民訴法第四二〇条第一項第七号により再審の事由ありと思料するので、再審の申立に及ぶ。

四、なお、再審原告が、一審における再審被告本人尋問の結果に、前記のごとき虚偽の供述部分のあることを知つたのは、上告審の判決言渡がなされた後である。

再審被告訴訟代理人は、本案前の陳述および請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。

(一)  本訴は民訴法第四二〇条第一項第七号所定の事由をもつて再審事由とするところ、同条第二項後段にいう「証拠欠缺外の理由により過料の確定裁判を得ること能はざるとき」にあたらないから不適法である。すなわち、同条第二項が同条第一項第四号ないし第七号所定の事由をもつてする再審の訴について、証拠欠缺外の理由により過料の確定裁判を得ることができないとき等に、同項所定の事実の存在することを要する旨規定しているゆえんは、そのような再審の訴を、再審事由の存在する蓋然性が顕著な場合に限定することによつて、濫訴の弊を防止しようとするものであるから、右にいう「証拠欠缺外の理由」とは、情状軽微な場合の起訴猶予、正当防衛、緊急避難、意思能力を缺き犯罪とならない場合等、一応虚偽の陳述の存在をうかがわせる公権的な心証形成が遂げられた場合に、なお有罪または過料とする結論を導き出せない理由を意味し、本件のごとく漫然と過料の裁判を得る機会を逸した場合をも右の理由に含ましめることはできない。

(二)  のみならず、再審原告が本訴において虚偽の陳述であると主張する一審における再審被告の供述は、再審原告が控訴審において、すでに知悉していたものであり、再審原告は控訴審においてこの事実を主張しているのである。しかるに、再審原告は上告審においてこの事実を主張していないのであるから、民訴法第四二〇条第一項但書によつて、この事実を再審事由とすることはできない。

(三)  さらに、当事者本人が、虚偽の陳述をした場合に、受訴裁判所がその当事者を過料に処するには、(イ)その当事者の陳述が事実に反していることのほかに、(ロ)その当事者に虚偽の陳述をしたことの認識のあることを要するところ、再審原告において、再審被告の陳述が再審原告の主張と異なるという意味で不実であると主張するにすぎない部分は、右の(ロ)の要件を欠くもので、主張としても不充分なものである。特に再審原告とその妻永吉ツネおよび同居人玉村吉雄間の代理関係の有無のごときは、もともと再審原告と遠く離れて居住している再審被告において容易に確知しうべきことではないから、たとえ多少の不正確な陳述があつたとしえも、それをたやすく虚偽ときめつけるべきものではない。

(四)  なお、一審における再審被告本人尋問の結果が事実に反する虚偽の陳述であるとの再審原告の主張は争う。〈証拠省略〉

理由

一本訴請求原因一の事実は成立に争いのない新甲第六ないし第八号証によつて認められ、また再審原告のいう一審における再審被告本人尋問の結果が、再審を求めている控訴審判決の証拠となつていることは、右新甲第七号証によつて明らかである。そして、福岡高等裁判所昭和四五年(ネ)第二六一号所有権移転登記手続請求控訴事件(原審福岡地方裁判所昭和四二年(ワ)第一、三一七号)の訴訟記録によると、右控訴判決にいう一審における再審被告本人尋問の結果とは、「再審原告の承諾のもとに、その代理人である永吉ツネおよび玉村吉雄と再審被告との間において、再審原告所有の本件不動産につき売買契約が締結された」旨および「当時はいつも、永吉ツネは玉村吉雄と一緒に来訪していた」旨の各供述部分がその主要な部分であることが認められる。

二再審原告は、右の一審における再審被告の各供述部分は虚偽の陳述であるから、本来ならば直ちに過料に処せられるべきところ、受訴裁判所において過料の裁判がなされないまゝ審級を離脱しているので、もはや確定裁判を得ることは不可能であり、右は民訴法第四二〇条第二項後段にいう「証拠欠缺外の理由により過料の確定裁判を得ること能はざるとき」にあたる旨主張するので検討するに、右にいう「証拠欠缺外の理由により過料の確定裁判を得ること能はざるとき」とは、虚偽の陳述をしたとする当事者本人が死亡した場合のごとく、証拠欠缺外の理由により過料の確定裁判を得ることができない場合をさすものと解すべきところ、再審原告の主張する受訴裁判所において、過料の裁判がなされていないまゝ審級を離脱したということだけでは、いまだ右にいう証拠欠缺外の理由により過料の確定裁判が得られない場合にあたるものとはいい得ない。けだし、過料の裁判は、当事者本人が虚偽の陳述をした受訴裁判所においてこれをなすべきものではあるが、この裁判は、訴訟がその裁判所に係属中たると、その後たると、またその訴訟事件の確定後たるとを問わないからである。

そうだとすると、本件再審の訴は、民訴法第四二〇条第二項所定の要件を欠くものであるから、同条第一項第七号所定の再審事由についての判断に立入るまでもなく不適法として却下さるべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(中池利男 鍬守正一 綱脇和久)

〈目録省略〉

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